スーパーコンピュータの性能を最大限に生かした革新的なシミュレーションを実現し、ライフサイエンス分野における計算科学に取り組んできたプロジェクトの歩みとこれからの展望を紹介します。
年度 | プロジェクト名 /課題名 | |||||
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2023-2025 年度 |
「富岳」成果創出加速プログラム *
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2021年3月 |
スーパーコンピュータ「富岳」 共用開始 * |
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2020-2022 年度 |
「富岳」成果創出加速プログラム*
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2020 年度 |
HPCI新型コロナウイルス感染症対応臨時課題
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2016-2019 年度 |
ポスト「京」で重点的に取り組むべき社会的・科学的課題*
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2012年 9月 |
スーパーコンピュータ「京」共用開始* |
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2011-2015 年度 |
HPCI戦略プログラム*
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2006 -2012年度 |
最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用*
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これまでに「京」・「富岳」を用いた創薬と医療応用のグループが融合し、がん・心疾患・難病をターゲット疾患とした病態解明・創薬・診断支援に実践的応用することで、現代の医療・創薬が抱える根本課題克服に挑戦するシミュレーション・ AI 駆動型次世代医療・創薬の開拓を目指します。さらには創薬・医療のバーチャル空間を「富岳」を中核として構築し、創薬・医療におけるSociety5.0の理念を具現化しようと考えています。
研究体制は、開発済みアプリを「富岳」に適用し医療・創薬の実用的な成果創出を目指す社会実装グループと、富岳NEXTを見据えた次世代の医療・創薬計算技術を開発する次世代アプリケーション開発グループに分け、若手・中堅研究者を中心とした以下に示す8つの研究チームで構成しています。
2012年に稼働開始したスーパーコンピュータ「京」は、基礎研究や技術開発に貢献し、世界の計算科学分野をリードしてきました。2014年からはさらなる社会や科学分野のさまざまな課題を解決することを目的として「京」の後継機として「富岳」の開発が進み、2019年に「富岳」の製造が開始されました。2021年度の共用開始に向けて調整を進めている中、2020年4月に新型コロナウイルスによる感染拡大の事態に対応するため「富岳」の計算機資源を優先して提供する試行的利用が進められるということがありました。2021年3月には共用が開始されました。
関連サイト
2020年4月よりスタートした「富岳」成果創出加速プログラムでは、「富岳」の計算資源を活用して、価値創造につながる4つの領域で成果が期待され、②国民の生命・財産を守る取組の強化の領域では、「プレシジョンメディスンを加速する創薬ビッグデータ統合システムの推進」の課題解決に向けて取り組みました。
「京」に比べて125倍の実効性能を発揮できるGENESISと創薬ビッグデータ統合システムを用いて患者由来の遺伝子多型・変異がタンパク質の構造やダイナミクスに与える影響を明らかにし、得られた分子レベルでの病態解明・薬剤反応性・薬剤設計に関する知見を創薬現場、臨床現場に提供しました。創薬現場では、産官学で創薬シミュレーション技術及びAI創薬技術を開発しているコンソーシアム(LINC)と連携して「富岳」利用のプロジェクトを立ち上げました。臨床現場では、国立がん研究センター、京大病院がんセンターと連携し、がんゲノム医療の変異情報の提供、計算結果の共有に関する共同研究を開始しました。
【令和2年度成果報告書】 【令和3年度成果報告書】関連サイト
文部科学省では、スーパーコンピュータ「京」の後継機の開発を2014年度より着手し、「ポスト「京」で重点的に取り組むべき社会的・科学的課題についての検討委員会」において、9つの重点課題が選定されました。ライフサイエンス関係重点課題のうち、次の二つがそれぞれ、理研、東京大学医科学研究所が代表して実施することになりました。
重点課題1「生体分子システムの機能制御による革新的創薬基盤の構築」
(代表機関:理化学研究所生命システム研究センター 課題責任者:理化学研究所生命システム研究センター 奥野恭史)
重点課題2「個別化・予防医療を支援する統合計算生命科学」
(代表機関:東京大学医科学研究所 課題責任者:東京大学医科学研究所 宮野悟)
重点課題1では、ポスト「京」の計算能力を最大限に活かすような分子シミュレーション技術を開発し、生体分子システムの時間的・空間的な機能解析を実現する新たな構造生命科学を開拓し、それらを通じて次世代の創薬アプローチとなる計算技術の開発に取り組んできました。さらにこれらの先端計算技術を創薬計算フローに沿って連結した創薬ビッグデータ統合システムを開発することで、医薬品開発プロセスの効率化と新薬創出につながる新たな方法論を開発してきました。
【平成30年度成果報告書】 【令和元年度成果報告書】科学技術の進歩により私たちの生活は大きく変化し、便利さや快適さが増した一方で、少子高齢化や気候変動などの社会課題も顕在化しました。これらの課題は複雑で絡み合っており、解決にはIT技術が必要です。このような背景のもと、スーパーコンピュータ「京」が2012年に稼働開始し、基礎研究や技術開発などで多くの研究者や企業の方々が「京」を使い、多くの科学的な発見につながり、世界の計算科学分野をリードしてきました。研究の成果は、創薬・医療、防災、ものづくりやエネルギー問題など幅広い分野で新たな技術の開発のために役立てられています。
関連サイト
戦略プログラム は、「京」を中心に、大学などのスパコンをネットワークでつないだ HPCI(ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ:高性能の計算環境)を最大限に活用して、世界最高水準の研究成果を創出するため、下記5分野を重点的に研究開発する文部科学省のプログラムです。
分野1 予測する生命科学・医療および創薬基盤
分野2 新物質・エネルギー創成
分野3 防災・減災に資する地球変動予測
分野4 次世代ものづくり
分野5 物質と宇宙の起源と構造
2011年4月、理化学研究所は、「ライフサイエンス分野における計算科学研究」分野にさらなるブレークスルーをもたらすべく組織として「HPCI計算生命科学推進プログラム」を設立しました。先の「次世代生命体統合シミュレーションソフトウェアの開発」の成果を「HPCI計算生命科学推進プログラム 予測する生命科学・医療および創薬基盤」に直接活用し、「京」で動作するアプリケーションの開発を進め、ゲノム・タンパク質から細胞・臓器・全身にわたる生命現象を統合的に理解することを通して、疾病メカニズムの解明、その予防、創薬研究などを進めてきました。
関連サイト
文部科学省では、「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」プロジェクトを開始し、2012年の完成を目指した次世代スーパーコンピュータの開発、および次世代スーパーコンピュータを最大限に活用するためのソフトウェアの開発を進めることになりました。これがのちの「京」のためのアプリケーション開発となりました。この開発ソフトウェアは グランドチャレンジ・アプリケーションとよばれ、ナノテクノロジーとライフサイエンスの2分野において研究開発が進められることになりました。ライフサイエンス分野のチームでは、合計31本の開発に取り組み、他の科学技術分野を凌駕する速度で必要なソフトウェア群を開発することができ、スーパーコンピュータを生命科学分野で活用する上で重要な資産として、活用され続けています。